デスバレー国立公園:②はじめての荒れ地
11月23日の朝。着替えとハイキングの装備を適当に車に積み込む。水と食料は途中で買えばよい。世界有数の砂漠地帯に向かうにしては心許ないが、「危ないと感じた時点で引き返す」ことを内心で確認して出発した。
ロサンゼルスから1時間ほど東へ飛ばすとフリーウェイの15号線に合流する。15号線はメキシコ国境から北のカナダ国境まで、西アメリカを南北に貫く道路。これで2時間ほど北上してネバダ州境の手前で横道に入り、またしばらく走ったところのショショーン(Shoshone)という集落がこの日の目的地だ。
15号線に乗るあたりは、ロサンゼルスからサンバーナーディーノ(San Bernardino)へ続く巨大な都市圏がようやく途切れる境目でもある。そこから先は乾いた大地をひたすらまっすぐ突っ走っていく。そのまっすぐさたるや、あまりに直線過ぎて曲がり方を忘れるほど。日本と違って避けるべき小地形(山とか谷とか)がほとんどないため、道路計画のときに線を引くのはさぞかし簡単だったことだろう。
こちらの高速道路にはサービスエリアというものが存在しない。そのかわり、ちょうどガソリンが切れたり、トイレに行きたくなったりする間隔で、補給地点が設けられている。何の脈絡もなく荒野に巨大なショッピングセンターが現れたり、あるいはぽつんとガソリンスタンドが立っていたりするのだが、そういうものをうっかり通り過ぎてしまうと命取りである。街と街の間には道というものが高速道路1本しかなく、迂回して戻るという選択肢はほぼない。ときどき駐車して休まないと睡魔も襲ってくる。運転は簡単な反面、腹減った・眠い・トイレ行きたい、といったプリミティブな感覚と対峙する道中だ。
何もなければ3〜4時間の道のりのはずだが、この日はさすがの連休で、断続的な渋滞に捕まった。前述した通り、逃げ場のない一本道なので、渋滞に入ればただ耐えるのみである。車内でひとりなのを幸い、歌でも歌って気を紛らわせるしかない。
じりじりしながら渋滞をやり過ごし、ベイカー(Baker)という集落で15号線を離れた。ここからは交通量ががくんと減り、一段と人のいない土地に入っていく。下の写真の中央、はるか遠くに白いカスが光っていて「街だ!!」と思ったのだが、近づいてみるとキャンピングカーの群れだった。この荒野に根無し草の車両がちんまり集まっているのを見ると、マッドマックス的(あるいは北斗の拳的)世界観を想起させられる。
ドライブには音楽がつきものだが、手持ちの曲でこの風景に似つかわしいものがほとんどない。あまりにだだっ広すぎる。ふだん聞いているような、人間の喜怒哀楽を表現した音楽は、度を越した荒涼さを前にすると吹っ飛んでしまうということがよく分かった。私の感受性の問題であって、その音楽が薄っぺらだということではないが、とにかく、合わない。何を聴いても、どこか遠くのことを歌っていて、ここには関係ないような気がしてしまう。スマホに入っている曲で唯一しっくりきたのは名作「ロマンシング・サガ3」サウンドトラックから「砂漠のテーマ」。
ロマサガ3 BGM 砂漠 Insufferable Desert
100回くらいリピートして気分が完全にハリード*1と化したところで日が暮れてきて、予約したモーテルにチェックイン。できればお昼頃にデスバレー国立公園に入ってみたかったが、見たこともない乾燥地をドライブし続けて、それだけで気持ちの高まった旅行初日だった。