カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス生活の日記だったけど、今は大阪にいます。

デスバレー国立公園:③オアシスで七面鳥

 なかなかデスバレーにたどり着かないが、その手前のショショーンという村のことも書いておきたい。Wikipediaによると2010年の人口31人という小さな村だが、東側からデスバレーに乗り込む旅行者にとっては貴重な中継ポイントだ。ガソリンスタンドと食料品店があって、こんな小さな村ながら地名が入ったTシャツなんかも作って売っている。モーテルも1軒あって、初日の宿はそこにした。

 着いたのは夕方で、宿の周りを少し散歩したらすぐ日が暮れた。ここははるか彼方の山地からの伏流水が地上に湧き出している場所で、砂漠の真ん中とは思えないような木立に囲まれた小川と池がある。ネット情報によると、この池にはShoshone Pupfishという世界でここにしかいない魚(亜種)が生息している。このあたりは10数万年前までは一面の湖で魚がうじゃうじゃ泳いでいたのだが、その後の乾燥化で急速に干上がって、こうしたごくわずかな水環境にのみ、その頃の生き残りが閉じ込められているということらしい。小川の周りは環境保存のためによく整備されていて、地元の人の「これを大切にしたい」という気持ちが伝わってくる。UC Irvine(大学)や自治体と協力して作られたという説明パネルを読むと、環境の悪化で一時は絶滅したと思われていたショショーン固有の亜種が1980年代に再発見されて、その後保護活動が展開されたとのこと。私がその池の周りを歩いたときには、真っ暗で何も見えなかったが、次に訪れることがあればぜひこの目で見てみたい。

 村を一周散歩したら腹が減っていることに気づいた。経費節約のためには昼間ウォルマートで買ったドーナツとドライフルーツでやり過ごす手もあったが、せっかく休暇でこんな辺鄙なところまで来ているので、村に一軒のレストランに入ってみた。いちおう「Yelp」*1を覗いてみると、絶賛と酷評が両方並んでいる。いずれにしろ選択肢はないのだから、期待せずに行くしかない。

 モーテルから道を挟んで反対側のドアを開けると「ハロー、どこでも座って!」と明るい応対。あ、これはあんまりひどいことにはならないな、と直感した。ナチョスブリトー、ステーキと西南部っぽいメニューが並んでいるが、なんと今日は特別に「サンクスギビング・ディナー」というのを出しているらしい。家族もいないしサンクスギビングは楽しめないな…とあまのじゃくに砂漠を目指してきたところに、なんだか嬉しいサプライズだ。素直にそれを頼んでビールをつけてもらうことにする。

 

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 出てきたのがこれ。驚くべきことに、まずくない!私の味覚は既にアメリカ・シフトを完了させているので、「まずくない」というのは「ものすごいおいしい」に変換されることになっている。甘すぎず、しょっぱすぎず、油っこくない、奇跡的な食事だ。うどんやビビンバでさえ特盛りにしてしまうこの国において、信じられないことに量もちょうどいい。材料の輸送コストがかなりかかるだろうに、値段も良心的だ。

 奥のオレンジ色のものはサツマイモのペースト。ミックスベジタブルにマッシュポテトときて、手前の黄色いのは名前を忘れたけど塩味のスポンジケーキのようなもの。それでメインは裂いた七面鳥で、真ん中のクランベリーソースをつけて食べる。ここがサンクスギビングならでは、という部分のようだ。名物を食べたという単なる達成感以上に、うまいうまいと感謝しながら完食した。(デザートにアップルパイもついてくる)

 時間があったので持参した三浦しをんを読みながら入り浸ろうと思っていたのだが、カウンター席で隣に日本人カップルが来てしまったので、何となく気詰まりでそそくさと出る。とにかく小じんまりとしたいい店だった。これなら喜んでチップ払います。

 笑顔できびきび働く店員さんたちを見ながら、都会から何十キロも離れた小村で毎日店に立つ人生、というのを想像してみようとしたけど、なんだかうまく想像できなかった。飽きず、倦まず、刺激が少なくてもそれなりに楽しく過ごす力があるというのはすごいことだ、と勝手な旅人の感傷にひたりながら眠りについた。

 次の日は3時に起きて星空と日の出を堪能する計画だ。いよいよデスバレーです。

 

つづく

*1:こちらの食べログに当たる。