カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス生活の日記だったけど、今は大阪にいます。

マイク・シノダのライブを見に行けない話

市内のレコード屋でマイク・シノダのライブをやる、という情報が流れてきた。

Live Shows at Amoeba - Upcoming Shows - Mike Shinoda

マイク・シノダ。なんか聞いたことある名前だと思ったら。

リンキン・パークの人だ。

すごいなロサンゼルス。

その日は、

仕事だ!

 

 

 

 名前にすぐピンと来なかったくらいで、私は熱心なファンではない。というかデビュー・アルバムしか知らない。

 でも、そのデビュー・アルバムは死ぬほど聴いた。パソコンに記録されている再生回数ナンバーワンである。心の底から好きなあのバンドより、どハマりしたあのアイドルより、リンキン・パークをたくさん聴いているのである。これはすごい。

 リンキン・パークが流行ったのは私が高校生の頃だった。その頃私は「みんなと同じものを聴くと死ぬ病」にかかっていたため、当初興味のないふりをしていた。「たしかにかっこいいけど、で?」という感じ。「で?」と気取ったところで、お前の好みなんか誰も気にしてないよと言ってやりたいが、男子高校生(イケてないほう)だからしょうがない。

 しかしそんな私をすぐに価格破壊の波が襲った。バカ売れした1st「ハイブリッド・セオリー」が大量に中古市場に出回ったのだ。「安くていい曲」という概念は強い。今はなくなってしまった地元のdisk unionのワゴンセールで、100円の「ハイブリッド・セオリー」は貧しい高校生を何度も誘惑した。幾度かためらった後、ついに高校生は「ま、まあ、この値段だったら聴いてみてもいいかな?」と、往生際悪く無への予防線を張りながら、レジへと向かった。

 そんで、結果から言うと、ものすごいヘビロテアルバムになってしまった。ハマったというのとは少し違う。英語は速くてよく聞き取れないし、どんなことを歌っているかはあまり気にならなかった。ただただ、イヤなこと全部吹き飛ばすような疾走感と音圧が気持ちよかった。音としての「効能」に中毒したのである。

 この「効能」はかなり強力で、10代後半の自己嫌悪と自尊心でぐちゃぐちゃの時期を乗り越えられたのは、他のいくつかの音楽と並んでリンキン・パークのおかげだ。大学院で無限に気が散る私をなんとか論文に向かわせたのもリンキン・パークである。去年死んでしまったメインボーカル、チェスターの喉を裂くような叫びに脳みそを晒すと、余計なつまらない思考は吹っ飛んでいく。それで「くそったれ、やってやるよ」という気分だけ、残る。

 余計な思考が飛んだせいで論文の質がどうなったかは置いておくとして、良くも悪くも、この人たちが全力で叫んでいたおかげで今の私がある。精神安定剤のような使い方をしていたので、彼らの歌詞や、そこに現れる思想には関心が向かなかったが、唯一、One Step Closerという曲の言葉は脳裏にしみついている。

 


One Step Closer (Official Video) - Linkin Park

 

 2:07に出てくる「Shut up when I'm talking to you!」というシャウト。「俺が話してるときは黙っとけクソが!」というこの部分、直前のタメも最高で、聴くたびに「よっしゃー、そうそうそうだよホント!」と頷いてしまう。会議の前にかならず聴くようにしているサラリーマンもいるとかいないとか。

 One Step Closerという曲名は「俺は崖っぷちだから、あと一歩(One Step Closer)踏み込んだらぶっ壊れちまうぜ」という意味が込められている。これを聞き続けた私の15年もよっぽど崖っぷち気分だったのかもしれないが、この曲で紛らわせたおかげで「あと一歩」踏み出すことなく歳が重ねられた。

 デビュー・アルバムしか知らないくせに、なんだかすごい好きみたいな文章になってしまって、本当のファンに申し訳ない。繰り返すが、すごい好きなわけではないのだ。ただ、すごい助けられてきた事実があるだけなのだ。なので、今週のマイク・シノダのライブに行けないこと自体は、大したことではないかもしれない。どのツラ下げて、という話である。

 私が馬鹿みたいに初期衝動の激しさだけをキメ続けている間に、彼らの音楽性もずいぶん変容している。最近の作品はわからないし、今さら追いかけるのも骨が折れる。仲間を失った後も輝くミュージシャンはたくさんいるので、どうか健全にキャリアを続けてくれるよう遠くから祈るのみ…。

 

 

 とは言うものの、これを書きながらYoutubeで検索してみると、マイク・シノダ、さすがにかっこいいなあ。今週出る新しいアルバムは「Post Traumatic」というタイトルだそうだ。Crossing A Lineという曲なんか、冒頭の揺れるシンセ音が悲しみを伝えながら、サビの強いビートは生きている人の一歩一歩の足音のようで、友達を悼む気持ちが素直に伝わってくる。

 

 

 上に書いたデビュー・シングルのOne Step Closerは崖っぷちの向こうに行きそうになる気持ちを歌った曲だった。それを叫んだボーカルの死後、残されたマイク・シノダが作ったCrossing A Lineというこの曲も、ある線を超えて向こう側に行くかどうか、というテーマが共通している。 

 

  やっぱりちょっとライブ行きたい。