カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス駐在の日記です。2017年10月から

サマータイムとでたらめなパッション

 ここアメリカではサマータイムが実施されている。日の長い夏の時間は1時間時計を早める、というアレである。ここでは3月から11月までがサマータイム期間なので、サマーという季節にだけ限られた制度ではない。こちらの用語でいう日光節約時間(Daylight Saving Time)というほうが実態に即している。

 何がいいって、明るいうちに帰れるというのがいい。精神衛生上きわめて有益だ。5月現在、カリフォルニアでは夜の8時くらいまで日が落ちないので、定時を過ぎてちょこちょこっと残業したってまだ明るい。「あーあ、また仕事してたら日が暮れた…」と思いながら帰るのと、「帰って子どもとキャッチボールでもするかな」と考えながら帰るのでは雲泥の差だ。オープンテラスの飲み屋で夕日に乾杯してもいいし、海が近ければ業後に波乗りして帰ったっていい。これが一年の半分以上、毎日続く。最高である。

 日本では省エネの観点から導入が検討されたことが近年でも何回かあったけど、いずれもうまく合意形成ができずに立ち消えになっている。反対派の指摘するデメリットとして、「実はそんなに省エネにならない」「睡眠が乱れる」「システム更新にコストがかかる」「どうせ残業があるから帰れない」というあたりがあるらしいが、いずれも本質的な反論にはなっていないと思う。

 「省エネにならない」という点は、事実かもしれないが、上に書いたように「毎日楽しく暮らせる」というすごいメリットを打ち消すほどではない。省エネの手段は他にもたくさんあるわけだし。「睡眠が乱れる」も、やってみりゃ慣れるとしか思えない。睡眠障害の主要因はたいがい慢性的なものであって、毎日のストレスや不摂生に比べたら、1年に2回だけのわずかな時差調整は大きな問題にはならないだろう。実際アメリカ人は時間切り替えの前後もピンピンしている。「システム更新コスト」も、動かない高速増殖炉に延々1兆円払い続けてきた我が国*1にとって大した問題ではない。というのは極論だとしても、要は投資によってそれに見合う社会変化が起きるかどうかである。

 偏見だが、いちばん障害になっているのは最後の「どうせ残業があるから帰れない」という点だろう。残業しないで済むかどうかと、サマータイムを実施するかどうかは、論理的にはぜんぜん別問題なのだが、多くの人が「早く帰るなんて夢のまた夢、自分には関係ない」と思っていることが、前向きな議論の妨げになっているのではないかと思う。

 やはり過剰な残業が諸悪の根源…うーむ…と考えながら車で帰宅していたら、変なものを見た。薄緑のシャツにきちんとネクタイを締めたおじさんが中央分離帯に立っている。満面の笑みで揺れている。揺れている、というか踊っている。むかしポンキッキーズ爆笑問題がやっていた「でたらめな歌」の振りを彷彿とさせる手足のバタつきである。そして、おじさんが両手でワッショイワッショイしてるのは白塗りの大きな十字架である。釘が打たれたであろう十字架の先っぽに、ご丁寧に赤ペンキで血が流れたようにペイントしてある。そして下手くそな字で「神は救いたもう」と書いてある。とてもシュール。しかし陽気だ!道の真ん中に、満面の笑みでワッショイワッショイするおじさん。手足はバタバタ、ワッショイワッショイ、バタバタ、ワッショイ……ビュンビュン走り過ぎる自動車…でたらめなぁ人でたらめなぁ人でたらめなぁ人ここにいる…。白いイヤホンで何を聴いているのかおじさんよ、爆チュー問題って知ってますか…。