カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス生活の日記だったけど、今は大阪にいます。

果物事情とアレルギー

 果物売り場にアプリコットが出ていた。どうやって食べるのか分からないが、クルミ大の実を買い物客が慎重に選んで袋に詰めている。黄色がかったオレンジがみずみずしい。さくらんぼも、日本で「アメリカンチェリー」と呼ばれている黒っぽいやつ以外に、もう少し繊細な色合いの品種が並び始めた。これもとても美味しそうである。

 

 つらい。

 

 私はこのへんの仲間はアレルギーで食べられないのだ。

 アレルギーといっても大人になってからのアレルギーだ。子供の頃はぱくぱく食べていた。もらい物で実家に山形の佐藤錦が来たときは、こんなにおいしくて美しい果物があるのかと感動して大好きになった。

 ところがハタチの頃のある日、さくらんぼを食べて喉がかゆくなった。もともとアレルギー体質なので、最初は「たまたま何か変な刺激があったかな?」くらいに流したけど、その後もさくらんぼを食べて、くちびるや舌がしびれることが続いた。

 あーこれはやってしまったかなと思いながら検索したら、どうやら「口腔アレルギー症候群」というのを発症してしまったようだった。花粉症やアトピーから派生するアレルギー反応で、主に生の果物やナッツが引き金となるもの。治らないらしい。

 がーん。あの芸術的な日本のさくらんぼを、これから一生避けなければならないのか。かなりショックだった。おまけに桃も食べられないということが分かるまでに長くはかからなかった。めちゃくちゃおいしくて大好きなのだが、食べてる最中から口や喉がしびれてかゆいのである。軽い症状で済むことが多いが、ネットで調べる限りではアナフィラキシーショックの危険もなきにしもあらずという。

 そんなこんなで20代から、ひとつの喪失を抱えて生きている。カリフォルニアは果物がよく採れるのでスーパーにはいつもいろいろな果物が山盛りになっているけれど、桃、チェリー、プラム…といった山は、悔しいのでいつも見ないようにしている。土地のものをたくさん食べてこそ、その場所の理解が深まると思うので、実に惜しい。

 仕方がないので、別の果物を一生懸命食べている。大味なものが多いが、冬場に食べたスウィーティーはとてもおいしかった。こちらではオロ・ブランコという名前で売っていて、グレープフルーツと日本の文旦をかけ合わせた柑橘だ。その元になった文旦そのものも、ポメロという名前で売っていて、これも肉厚で最高に美味しい。同じ柑橘系では、温州みかんもわりとおいしい。もう季節は終わりだが、冬の間はたくさん食べた。

 リンゴはこちらでは丸かじりするのが一般的で、コロコロした小さいサイズで売っている。皮を剥いたのに慣れている私は、まだ好きになれていない。ふじりんごもそのままFujiという名前でたくさん売っているけど、味が薄い気がする。憶測だけど、サイズや味がこんな感じなのは、日本みたいに頑張って摘果(間引き)して一つの実に栄養を集中させないからではないかとも思っている。アメリカの農業の規模で日本のように丹精込めていたら大変だから、別に文句をいう気はないけど、ただ違いが面白い。

 リンゴといえば、こないだラジオで、今シーズンは豊作になりすぎたと言っていた。値崩れの不安が高まっているらしい。メキシコからの輸入も大量で、できてしまった作物を消すこともできないし、最悪廃棄処分もやむなしという話だ。ジュースとか加工に回すことでなんとかしようと業界は必死です、とラジオに呼ばれた生産者団体の人が締めくくっていた。日本でもトラクターでキャベツを轢き潰す絵がときどき話題になるが、現代農業の抱える矛盾はいずこも同じ。

 アプリコットや桃を見ないようにしながら、私の最近のお気に入りはスイカである。こちらの農作物は全体的に水気が少ないことが多いが、スイカはさすがに英語でwater melonというだけあって水分たっぷりだ。小玉のを冷蔵庫で冷やしておいて、好きなだけかぶりつくのが朝晩の楽しみだ。

 スイカもアレルゲンになることが多いらしい。頼むから反応しないでくれよと、自分の体に祈りながら食べている。