カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス生活の日記だったけど、今は大阪にいます。

物量のトマト

 「10缶で10ドル!」というセールをやっていたので、トマトの缶詰を10個も買ってしまった。我に返って途方に暮れつつ、頭の中では「トマト缶十番勝負」と墨文字が黒々と踊っている。戦いが始まったのだ。だって、ふだんそんなに使わないもの、ひとり暮らし。最近体質が変わったのかあまりパスタは食べなくなったし、基本的に家では米飯なのだ。ごはんに合うトマト料理というのはあまり思いつかない。

 たぶんひたすら肉や魚をトマトで煮ていくことになると思う。旨味と塩味を強調すれば、それなりのおかずになるだろう。おなかの調子のいいときにはスパゲティ茹でてもいいし。安さにつられて購入したのに、ストックの多さで精神的な負債を背負ったような気分で、愚かなことだ。

 だいたい、10缶セットという売り方が大変に米国的だ。キッチン収納の狭い日本でこれやっても客は見向きもしないんじゃないだろうか。さすが大量消費社会の本家本元である。

 アメリカに来て最初に目についたのが「Buy One Get One」という文句で、これは本当にそこらじゅうにあふれている。「1個買えば1個タダでさしあげます」という意味なのだが、ひとり暮らしの私としては、ほとんどの場合、ほしいのは1個だけなのだ。2個いらんから1個を半額にしてくれや…と思いながら、でも1個タダと言われると、なんとなく2個受け取ってしまうのが悲しいところで、すごく無駄な経済行為に加担した気がして後ろめたい。

 前にカフェでコーヒーを買おうとしたら「今日はBuy One Get Oneだからもう1杯サービス」と言われたこともあった。こっちのどでかいコーヒーを2杯も飲んだらカフェイン中毒でおかしくなっちまう。そのときは同僚に引き取ってもらったから良かったけど。

 こういう「量」への素朴な信頼というのは社会にあふれていて、環境問題なんかで立ち止まってオルタナティブを考える動きもあるっちゃあるけど、基本的には供給サイドは「多いほうがいいでしょ?」というスタンスだ。なんとなくそれが景気のいい雰囲気を醸し出している効能もあり、良いとか悪いとかでなく、自分もそれに少しずつ染まっているのだと思う。そのうち缶詰10個買ってもびくともしなくなるんだろう。