カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス駐在の日記です。2017年10月から

日本の大学の留学生へのアフターケアについて

 少し前のこと。

 仕事が終わってオフィスを出ると、男性二人組がこっちを見ていた。「お前日本人か」と呼び止められる。なんだなんだと内心で警戒スイッチをオンにしながら、そうだけどと答えると「日本に郵便を送りたいんだが、どこで切手を買えるか知ってるか」などと聞いてくる。はあ?と思いながら、郵便局で国際郵便だって言えば普通に出せるんじゃないのと言うと「いやいや違うんだ、日本の切手が要るんだ」という。ますますわけが分からない。要領を得ないまま何回か聞き直してようやく理解できたのは次のようなストーリーだ。

 話しかけてきた二人組の片方は、最近まで九州のどこかの大学に留学していた。日本語はできない様子で、なんとなく工学系の研究者のような雰囲気だ。何の分野かはともかく無事に卒業(または修了)して、今はアメリカに戻っている。先日、何かの都合で留学に関する証明書が必要となり、その大学に発行を依頼した。すると、大学の事務担当者ははるばるアメリカから連絡してきているこの元留学生に対し、「切手を貼った返信用封筒を送れ」と指示したのだという。

 私はここまで聞いて、思わず「バカじゃないの!?」と叫んでしまった。大学が、という意味である。母国に帰った留学生がどうやって日本の切手を貼った返信用封筒を用意できるというのだろうか。一瞬、自分が知らないだけでアメリカでも日本の切手を買えるのではないかという可能性も考えたが、流通しているのは蒐集目的の古切手くらいであろう。お役所仕事にも程がある。証明書の発行などという単純かつ重要な事務すら国外対応できないなら、留学生の受け入れなんて最初からしなければいいのにとさえ思った。

 結局その場では返信用封筒の作り方が分からず、役に立てずにごめんと言って別れたのだが、帰って調べて見ると対処法がないわけではないようだ。たとえば国際郵便為替(International Postal Money Order)というものが少額の送金に使えるようで、これで証明書の発行手数料なり送料なりをアメリカから送ることができる。あるいはもっと現代的に、Paypalなど国をまたいだオンライン決済サービスを使うことも考えられる。なぜその九州の大学は、私がググって5分で見つけられたこのような方法を留学生に提示できなかったのだろうか。その硬直性に暗澹たる思いがする。

 私もお役所仕事には縁が深いので、そのアホな案内しかできなかった担当者個人を責める気にはなれない。規程と予算の制約、そして雇用の非正規化の中では、些細なことであっても、新しいことをするのは本当に難しいことである。しかし、こんな雑な対応ばかりでは、元留学生の愛校心も冷め、ひいては母国の優秀な後輩たちにもそっぽを向かれてしまうことだろう。多少通例から外れても、困っている元学生にはきちんとしたアフターサービス(せめて次善策をググるとかだけでも)が提供されるように、組織としての指針が必要だと思う。たかが証明書の発行という小さな業務だが、「私達は留学生を大切にしません」というメッセージを伝えるには充分だ。

 件の彼とは、数日後オフィスの近くでばったり再会した。ほうぼうツテを頼って、東京に知り合いが見つかったので、その人に返信用封筒の手配を頼んで事なきを得たそうである。