カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス生活の日記だったけど、今は大阪にいます。

アニメ版バナナ・フィッシュをアメリカで観る

 最近の楽しみはアマゾンプライムでやっている「BANANA FISH」のアニメである。週に1話ずつアップされるのを、シャツにアイロンをかけながら観ている。とても原作を大切にしたつくりで、内容はだいたい覚えているのにハラハラドキドキさせられる。何よりアッシュやショーター、シンが喋って動いているだけで、おおおと力が入る。

 ストーリーはきちっと原作を追っている中で、面白い挑戦として、時代設定が変更されている。原作ではベトナム戦争の影を引きずる80年代半ばのアメリカが舞台だったが、今回のアニメではそれが現代に変わっている。吉田秋生画業40周年の記念でアニメ化したということだが、漫画からアニメにする過程で40年の時間的跳躍を試みたわけである。

 80年代の空気をまとったキャラクターたちが、スマホやパソコンを使いこなしているのには違和感があるが、新しいファンを獲得するためにはやむを得ない措置だったのだろうと思う。ちょっとググったら古参のファンの方々からは総スカン食らっている様子だけど、私はそこまで熱心な読者ではないので、改変されている部分については許容範囲である。

 原作に背いているか否かとは別の視点で、リアリティを欠いていると思うのは、ぜんぜんヒスパニックが出てこないことだ。連載開始時にすでにアメリカのヒスパニック人口は急成長中だったが、2018年現在は絶対数としても人口比率としても、数倍に膨れ上がっている。この作品の軸は白人・黒人・中国系の3つのエスニックグループなのだが、きっと今ゼロから同じ物語を描くとすれば、メキシコ系のギャングを登場させずには話が成立しないと思う。

 主人公たちが東海岸のニューヨークから「バナナ・フィッシュ」なる謎を追って、はるか西のロサンゼルスにやってくるところが中盤のハイライトだが、そのロサンゼルスの人口の約半分はヒスパニックなのだ。そしてアメリカにおいて家庭内で中国語を話す人達が1%に満たないのに比べ、家庭内でスペイン語を話す人口は13%もあるのだ(2015年センサス)。もちろん中華系の財力・政治力はすごいので物語の核として決して弱くはないのだが、アニメ化で40年の時間をすっ飛ばしたことにより、こうした社会変動についていけてない面が生まれてしまったことは否めない。

 だからアニメがつまらないということでなく、ただバナナ・フィッシュが80年代のアメリカを色濃く反映した作品だった分、時代の改変によりアメリカそのものの変化が浮き彫りになっているのが面白い。

 アニメはもうロサンゼルスの出番は終わってしまって少し寂しいのだが、いよいよ物語は佳境に入っている。結末まで、アイロンがけのお供に観続けたいと思う。