カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス生活の日記だったけど、今は大阪にいます。

【読んだ】今日マチ子『いちご戦争』

  読んだというより味わったという感覚だ。漫画の形式を借りた、これは詩だ。

 果物やお菓子の森でカーキ色の服を着た無個性な少女たちがうつ伏せにのびている。飛び散るいちご、すいかの汁、腹部を貫くポッキー。この上なく淡くかわいいペンの線と水彩でこの作家が駆使しているのは詩人の暗喩である。血と臓物のことを描いている作品なのだが、後味はフルーツサンドである。

 初めて今日マチ子を知ったのは2015年に京都国際マンガミュージアムでやっていた「マンガと戦争展」だ。戦中派の大御所から新進気鋭の戦後世代まで戦争を扱った作品を網羅的に集めた展示で、こうの史代小林よしのりが同じところに並んでいるというのが面白かったのだが、呉智英の監修によるものだったと後で知ってさもありなん。ともかくここで知った作品はその後ずいぶん読んで勉強になった。

 中でも今日マチ子の『cocoon』と『いちご戦争』の原画は異質だった。きれいでかわいい。きれいでかわいいことによってきわめて効果的に戦争のえげつなさを伝えている。

 展示を見た後すぐ、沖縄戦を描いた『cocoon』の方を買って読み、なんだこれすごいと余韻に浸っているうちにそれだけで数年が経ってしまった。で、ようやく『いちご戦争』を手に取る機会ができたのが最近。感想は冒頭の通りである。

 海外でも文化研究をしているインテリ、アート肌の人には受けているようだが、もっといろいろな文脈で読まれてほしいと思う。この表現はちょっと他には真似できない。

 

いちご戦争

いちご戦争