カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス生活の日記だったけど、今は大阪にいます。

【読んだ】『照葉樹林文化』『暗黒神話』

 上山春平編『照葉樹林文化―日本文化の深層』を読んだ。これは上山(哲学)が音頭をとったシンポジウムの記録で、中尾佐助(植物学)、吉良竜夫(生態学)、岡崎敬(考古学)、岩田慶治文化人類学) という錚々たる京大閥の面々が顔を揃えている。稲作伝来以前の縄文文化がどんなものだったか、当時一流の学者が学際的に喧々諤々するという舞台設定なのだが、読み終わってみるとそれぞれ勝手に自説を披露しあって終わった感も否めない。こういうこともあります、こういうこともあります、の繰り返しでどこにもたどり着かずに議論は突然終わる。ひとつには上山自身が認める通り、縄文時代の研究を本業にしている専門家がひとりもいなかったためだろう。

 また、やはり半世紀前の本であるから、どうしても議論の古さが否めない。この論者たちに共通するのは今西錦司を中心とした京都の人脈であり、今西学派は自然科学の分野では既に乗り越えられた学説という評価が一般的なようだ。私は私なりにその適否を論じる力はないが、ともかくこのおじさんたち、特に中尾佐助の「えらそう」な語り口に辟易してしまいページをめくるのに骨が折れた。この人達の学問の基底には京都大学の探検メンバーとしてアジアから南太平洋にかけて縦横無尽に駆け回った経験があるのだけれど、アジアの森林から生まれる文化を語っているときに平気で「あの連中の農業は未開だね」とか「ああいう暗くて猥雑な森では快活な気持ちは生まれないね」とか言うので、そのたびにムム…と手が止まってしまう。ポストコロニアリズム早よ出てこいという感じである。

 こういう話題に興味があるならもっと新しい本を読んだほうがいいという感想が強いが、「科学」を装った日本人論の一類型として読むならば史料的価値はあると思う。

照葉樹林文化―日本文化の深層 (中公新書 (201))

照葉樹林文化―日本文化の深層 (中公新書 (201))

 

 

  続けてなんとなく諸星大二郎の『暗黒神話』を読んだら、これはむちゃくちゃ面白い。同じ縄文時代で想像力を働かすんだったらこれくらい荒唐無稽にやってほしい。単なる古代のお宝をめぐるサスペンスかと思いきや、短い話数でえ、え、どこまで行くの?とすごい勢いで全宇宙まで話のスケールがビッグバンしていくので笑っちゃう。上掲のまじめそうなシンポジウム本と実は興味のスコープは似ているのに、表現としてここまで違うものができあがってくる。こちらはとてもおすすめ。

暗黒神話 (集英社文庫(コミック版))

暗黒神話 (集英社文庫(コミック版))