カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス駐在の日記です。2017年10月から

【読んだ】遠藤公男『ニホンオオカミの最後』

 去年出版され、今年の年明け頃に生き物界隈で話題になっていた『ニホンオオカミの最後』。正月の帰省のときに八重洲ブックセンター本店で買ったまま積んであった。

 著者は東アジアを股にかける動物ノンフィクション・児童文学の書き手。知らなかったけど略歴に魅力的なタイトルが並んでいる。本書は、戦後すぐの頃から著者が調べ続けた岩手県ニホンオオカミに関する生物学的痕跡、言い伝え、風習、行政記録などの集大成として一冊にまとめたもの。まさに労作と言うべき内容で、かなりの高齢でありながら出版にこぎつけてくれた著者の遠藤さんには心から御礼を申し上げたい。

 ニホンオオカミは明治時代、きちんと調査が行き届く前に絶滅してしまったため、私達には彼らの生きていた姿を知ることができない。標本も世界で指折り数えるしか現存しておらず、生体写真もない。日本列島の食物連鎖の頂点に立った肉食獣であり、その名は広く知れ渡っているにもかかわらず、それがどんな風に生き、滅んだのかは私も知らずに生きてきた。

 本書でいちばん紙幅が割かれているのは、盛岡藩岩手県の狼狩りの記録についてだ。順に追っていくと、江戸から明治にかけて近代化していく東北地方、特に牧畜産業の拡大がどうしようもなく狼のテリトリーと衝突していった様子がよく分かる。お上が賞金をかけたこともあり、銃や罠を使ってものすごい勢いで「害獣」を駆除していった勢いは相当なものであり、読んでいてつらい。

 一方、牛馬に限らずヒトの子供も思ったより頻繁に狼に食い殺された記録が残っており、東北の貧農にとっては思ったよりも大きな脅威であったことも知らなかった。もちろん脅威であるということは、同時に畏敬の対象であるということでもある。狼に関連した祭祀、民話など、長年の古老への聞き取り内容も非常に面白く読めた。

 鹿や猪の獣害が深刻化する昨今、日本の近代化が何を踏みにじって成立したのか、同じ「発展」をこれからも続けていくのか、あらためて考えることが必要と思う。

 前にこのブログで書いた『オオカミの護符』が関東地方のオオカミ文化を扱っているので、合わせて読むと東日本の流れが大まかにつかめて良い。オススメ。

 

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ニホンオオカミの最後 狼酒・狼狩り・狼祭りの発見

ニホンオオカミの最後 狼酒・狼狩り・狼祭りの発見

 

 

 

オオカミの護符 (新潮文庫)

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