コリアタウンご近所物語
いつものようにアパートで晩飯を作りながらアニメを見ていると、トントンと扉をたたく音がする。おや、こんな夜更けに誰だろう・・・。
ドアを開けると、知らないおじさんが立っていた。片手には皿を持っていて、山盛りのかき揚げにラップがかけてある。藤沢とおるの漫画だったら、顔の横にでっかく「!?」と浮かぶシチュエーションである。誰?
以下、おじさんとのやり取り。
おじさん「私、斜向いの部屋に住んでるものです。こないだはお母様にすっかりごちそうになっちゃって・・・。これ(かき揚げ)、良かったらお返しにどうぞ」
私「えっと、私一人暮らしで母いないんですけど。誰かとお間違えじゃないですか?」
お「え、一人暮らし?これは失礼しました。えーと、フィリピンの方のおうちに用があったんですが」
私「それなら隣ですね」
お「あ、そうですか。お騒がせしてすみませんでした」
私「隣、留守みたいですけど」
お「あ・・・」
私「連休でどっか出かけちゃったみたいですね」
お「・・・(どうしたものかとかき揚げを見つめる)」
私「・・・(物欲しそうにかき揚げを見つめる)」
お「・・・じゃあせっかくなので、あなたが召し上がりますか?」
私「え、いいんですか?なんかすみません、ありがとうございます。ははは」
なんだか分からないうちに、かき揚げを手に入れた。狐につままれたような気持ちで一口食べてみると、、、ンマーイ!
ごぼう、にんじん、ねぎの細切りがカラッと揚がっている。何を隠そう私はごぼうのかき揚げとにんじんのかき揚げに目がないのだ。しかもおそらく衣にうま味調味料が混ぜてある、悪いかき揚げである。どこかのお惣菜コーナーで買った感じ。なんだか思いがけなく食卓が豊かになってしまった。
これはぜひともお返しせねばならぬ。ちょうどそのとき手羽中の味噌焼きを調理していたので、できあがりをタッパーに詰めておじさんの部屋に持っていった。味に自信がなかったので、たまたま買い込んでいたみかんもいくつか添えた。
夜10時半を回っていたのでどうかと思ったけど、次にいつ会えるか分からないので押しかけた。先程はどうも、ちょうど鶏肉焼いてたところなんでよろしければ召し上がれ、と韓国語で伝えると喜んで受け取ってくれた。お互いの名前も知ることができて、今後よろしくねという感じになった。
これまで2年住んだアパートだけど、近所付き合いは皆無に等しかったので、なんだか嬉しい。今度はパイナップルでも切って持っていこうかな。