カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス生活の日記だったけど、今は大阪にいます。

【読んだ】『ルポ ニッポン絶望工場』

 出井康博『ルポ ニッポン絶望工場』を読んだ。本の背骨になっているのは、ベトナム人留学生の違法就労(違法雇用と言ったほうがいいか)の問題に対する、足で稼いだ丁寧な取材だ。送り出し現地のブローカーから、日本の官僚・政治家までつながったピンハネの仕組みを、豊富なインタビューで明らかにしている。また、他にも中国・ブラジルといった先駆けの出稼ぎ送り出し国や、フィリピン・インドネシアからの看護・介護士受け入れにも光を当てつつ、日本の無責任かつぼったくりな国ぐるみの外国人搾取を浮き彫りにする内容となっている。

 2016年刊。新在留資格「特定技能」を創設した入管法改正が2018年だから、その直前に書かれた本である。

取材を続けながら、私が強く実感することがある。それは就労先としての「日本」という国の魅力が、年を追うごとに低下しているという現実だ。(はじめに) 

  2020年にこれを読むと、実に正しい見解だと思う。しかし、これが書かれたころはテレビでも「ニッポンすごい」的な番組がヤケクソのように流行っていて、多くの人が「憧れられる日本」にすがっていたように思う。新書の読者には、かなり挑戦的に受け取られたのではないだろうか。

 去年読んだ望月優大さんの『ふたつの日本』とは、同じトピックを扱っていながら、好対照を描いている。『ふたつの日本』が日本の移民問題の全体像を整理するために、政策の経緯や、それを分析する枠組みまで提示したのに対して、『ニッポン絶望工場』はひたすら個々の取材エピソードを積み重ねて大きな事実を明らかにしていくスタイルだ。正直「外国人は日本にとって益か害か」という、著者の広義のナショナリズム的視点には同意できないものの、ひとつひとつのエピソードには他の者には書けない生々しさがある。そもそも『ふたつの日本』の参考文献からたどって読んだ本なので関連があるのは当たり前だけど、2冊合わせて読むと相乗効果で理解が深まると思う。

 『ふたつの日本』を読んだときには、こんな建前だけの制度設計のままさらなる実質移民受入に進むのか、という憤りと不安があったけれども、新型コロナのせいで「移民」を取り巻く環境というのはまた大きく変わってしまった。今、日本に入っている留学生や実習生はどういう境遇に立たされているのだろうか。何よりも、まさに自分が移民の一人として日米の入国管理政策に振り回され、国境や国籍といった概念にリアルな手触りを感じて日々生きている。私にとって、自分の国が外国人にどういう仕打ちをしているのかを知るということが、ますます重要になっている。

 

www.e-hon.ne.jp

www.e-hon.ne.jp