カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス駐在の日記です。2017年10月から

フィールドノート(Mt. Williamson)

 3ヶ月ぶりに高い山に登った。エンジェルス国立森林公園のMt. Williamson。標高2,500mほど(足で登ったのは500mくらい)。

 あんまり気持ちがよくて胸がじんとした。

 下界は曇って涼しかったけど、山地を貫く州道2号線を上がっていくと、雲の上はむしろカンカン照りだ。歩くと汗が止まらず、2リットルのお茶をほとんど飲みきってしまった。

 3月、4月、5月というのは、南カリフォルニアの生き物たちが爆発的に成長する時期だ。厳しい乾季の前に子孫を残すため植物は一斉に花をつけるし、それに合わせて昆虫やそれを餌とする動物が全力の生存競争に火花を散らす。今年は例のウイルスのせいでその輝かしい季節を自室にこもって過ごす羽目になったので、今日山に入っても、季節を丸ごとスキップしてしまったような喪失感があった。私の大好きなセアノサスという灌木の花もだいぶ盛りを過ぎている。

 でも、気を取り直して歩いた。すでにカラカラに乾いた地面からは、しぶとく何種類もの野草が花をつけているし、あたりに充満した針葉樹の樹脂の匂いを吸い込むだけで頭がリフレッシュする。アメリカ西海岸特有の、スノープラントという毒々しい赤色をした寄生植物もひと株だけ確認できた。
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 歩き始めて、まず目を奪われたのはイワツバメの仲間だ。今日は暑くてハエやその他の羽虫がかなり発生していたのだが、それを狙ってイワツバメの群れが綺麗な軌道を描いていた。斜面を歩いていたので、上から見下ろすような形で眺めていたら、背中が緑に光って見えてドキッとした。背面は黒い鳥だという先入観があったのだが、たしかにハチドリにも似た鈍い構造色の反射があった。幸先のいいスタートだ。(帰って図鑑を調べたら、たしかに北米には緑や青の光沢を持ったツバメ類がいるらしい。見間違いではなかった)

 次にうおっと思ったのはガラガラヘビ。山道の真ん中に40〜50cmくらいの鎖模様がのびていた。ひと月前の記事にもガラガラヘビに会ったと書いたが、また遭遇してしまった。たぶん同じ種類だが、今日のほうが大柄で成体っぽい。私が歩いてくるのに道の真ん中から全然動かないので、へっぴり腰でスマホを向けて写真を撮る。舌がチロチロしてるので死んでるわけではないのだが、とにかく小石を放ったくらいではどいてくれない。仕方がなく少し道の脇の斜面を迂回して通り抜けた。いつかしっぽの「ガラガラ」の威嚇音を聞かせてもらいたいが、今日は特に長い棒も持ってなくて「安全に怒らせる」ことはできそうになかった。残念。

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 ハエも多いが、チョウも多かった。日本のとナミアゲハによく似たアゲハチョウが見事だったし、ひらひらと飛ぶおそらくカバマダラ擬態のマダラチョウ?も1頭だけ見た。数が多いのはタテハチョウ類で、たぶん4種類くらい目に入ってきた気がするけど全然区別がつかない。

 タテハチョウでまたひとつ面白かったことがある。特定のマツの木に沢山のタテハが集まっていたのだ。近くに寄るとパッと飛び立つが、またすぐに戻ってくる。よく見ると、明らかに口吻をのばして何かを吸っている。どうやら新しい葉が芽吹いているところに、何らかの樹液か何かが分泌されているらしい。ハエ・アブ・アリなども盛んに若い葉をなめているように見える。

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 マツの種名が分からないせいもあって、家で検索しても、針葉樹の樹液に虫が集まる現象のことは出てこない。カリフォルニアにはSugar Pineという、糖度の高い樹液を流すマツがあるらしいのだが、それだったのだろうか。勝手なイメージとして、針葉樹は揮発物質で虫を遠ざけてそうだし、粘度の高い松ヤニにふれることは小さな虫にとっては命取りだろうと思っていた。マツにあんなに昆虫が集まっているのを初めて見たので、とても意外だった。このマツと、チョウをはじめとする昆虫との関係について、ちゃんと研究されたものがあればぜひ読んでみたい。

 3時間ちょっとの短いハイクだったが、いろいろな生き物を見ることができて、とても楽しかった。暑くてたまらなかったが、ところどころにある風の通り道で涼みながら雲海を見下ろしていると、しみじみ天国だなあと思った。実際標高たかいし。

 あと、おまけで強いインパクトがあったこととして、クルマ乗って帰る途中でシカの轢死体を見てしまった。それほど形が崩れてなかったので、つい好奇心で車を止めてしげしげ観察してしまった。恐らく高速で腰に打撃を受けたと見えて、剥き出しになった腰骨が大きく損傷していた。日に照らされて乾燥しているとは言え、かなりの腐臭だった。大きな動物の死体を近くで見るというのは初めてで、少し動揺した。詳しくは描写しないけど、ウジも湧いていて、ちょっと長時間調べるのは無理だった。ふだん生き物好きとか言っておいて、すごすご逃げ出したのは情けない。本職の研究者はあんなの喜んで持って帰って、解剖したり骨格標本つくったりするんだからやっぱりすごい。

 

 まあ死体はともかく、いろいろと心揺さぶられることが多く、なかなか全て放り出して山に通えない社会状況である。でも、だからこそ、気負わずに、思い立ったらすぐザックをしょって出かけられるよう、心を整えていきたい。

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