カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス駐在の日記です。2017年10月から

【読んだ】リーヴ・ストロームクヴィスト『禁断の果実』

 スウェーデン発の「フェミニズム・ギャグ・コミック」。邦訳を手がけた編集者の山口さんのSNSから毎日情報が流れ込んでくるのでこれは読まずばなるまいと、年末の帰省ついでに東京国立は増田書店で買ってきた。ロサンゼルスに戻ってしばらく他の本と一緒に積んでおいた間にもよく売れていて、反響も大きいようだ。

 満を持して手にとってみると、ポップな絵柄とドライな皮肉に助けられて意外にすらすら軽い気持ちで読み終わった。しかし内容は女性の性器、月経、オーガズム…がいかに男たちのしょうもない思い込みと決めつけによって当の女性から奪われ、ねじ曲げられ、隠され(隠さされ)てきたかを紹介するというシリアスなもの。こんな風に笑いながらさっくり読めていいのかしらと戸惑うほどである。

 内容的にもビジュアル的にもコラージュが多用されており、こんなことがあった…この人がこんなことを言った…とフラッシュカードのように情報が入ってきて目が回ってくるところに、スッと差し挟まれる第4章「イブたちの声―女性の身体と恥の感情」というパートが、一転、淡々としたトーンで印象深い。インターネット等から汲み上げられた匿名の声を伝えている。

 ネットで見かけた本書に対する反発の中に、「この本は女性を絶対的な被害者として、女性の加害者性や男性の被害者性を見えなくしている!」というものがあった。わりかしTwitterでよく見かける気鋭の?論者からの批判だった。ふーんそういう読み方もあるのかと思ってもう一度読み返してみたのだけど、これはどうも最初の数ページだけを切り取った脊髄反射的な反応であるように思える。本書では最初のパート「女性器に興味を持ちすぎた男たち」で古今東西の男性論者による(大変力を持った)女性論をバッサバッサと切り捨てていて、それが件の批判者の眼には「古いフェミニズム」のように映ったようだが、そこからさらにページをめくれば不可視化の構造維持に女性が加担して(させられて)いたことも描き込まれているし、虐げられた男性がいなかったと書かれているわけでもない。

 私が読者としてむしろ気をつけないといけないと思ったのは、本書はヨーロッパの人によってヨーロッパの現象についてヨーロッパの事例を中心に書かれているという点。私の生まれ育った日本という国は近代以来欧米の多大な影響下にあるとはいえ、思想・性器・オーガズム・感情・月経という本書の各ポイントについて、日本には日本なりの文脈もあろう。自分自身の禁忌の感覚を省みてみても、その中にはキリスト教や欧米の思想・科学だけでは説明しきれないものがいろいろ混じっている感じがする。日本版『禁断の果実』が描かれるとしたら…?という仮定でどんな本が作れるか考えてみるのも面白いだろう。もちろん「仮定」するまでもなく先行する啓蒙的な取り組みが日本にも多々あるのだろうが、少なくとも不勉強な私はこの本を読んで初めてちゃんと考えたということが多かった。ありがたい。

 この本の功績は副題の表す通り、正面切って語られにくい「身体と性のタブー」を、コミックという方法によって皆の目に見える明るい場所まで引っ張り出したことだと思う。特に男性にとって、よく分からない女性の身体と性についてこんなに手に取りやすい入り口もなかなか見ない。女性のことが描かれているからといって別に対岸の火事ではなく、男性(もしくはそれ以外)としての自分の身体だってまたある種の規範の影響下にあるわけで、どんな性別の人が読んだって得るものは大きい。ぜひたくさんの人に読まれて、世の中の風通しがよくなることを願う。

 

禁断の果実  女性の身体と性のタブー

禁断の果実 女性の身体と性のタブー