カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス駐在の日記です。2017年10月から

【読んだ】小倉美惠子『オオカミの護符』

 武蔵国出身者として非常に興味深い本だった。実家の土蔵に貼られた一枚の護符から、文書の記録や古老のインタビューを頼りに辿りに辿って関東一円の山岳信仰を掘り起こし、神秘と驚異相半ばしたニホンオオカミに向き合った先達の姿に思いを馳せるプロセスが丁寧に描かれる。読んでいて、場面切り替えと語り口がドキュメンタリー番組のようだなと思っていたら、その通り、同名のドキュメンタリー映画が先にあって、それをプロデューサーの小倉さんがあらためて本にしたということなのだった。

 どうしてこのようないささかマニアックな本を持っていたかというと、三年前に読んだ『中央線がなかったら 見えてくる東京の古層』という本がきっかけである。中央線という近代に入ってから強力に東京の地理を再編成してきた存在を取っ払ってみると、地形と信仰とが密接に絡み合って成立した「土着の東京」が浮かび上がって見えてくる、という本で、当時一人暮らししていた中野区の良さがいまいち分からなくて殺伐としていた私にはとても響いたのだった。その中で(か、それに触発されて読んだ関連書籍の中で)参考文献として挙げられていたのが『オオカミの護符』である。絶対面白いだろうからぜひ書店で買いたいと思ってほうぼう探したのだがなかなか見つからず、結局古本をアマゾンで注文してしまった。

 三年積ん読にしていたのだが、アメリカ、そしてロサンゼルスという「土着のものが(要するに先住民文化)後から来た資本主義に激しく塗りつぶされている土地」にやって来た今こそ読むべきじゃないかと思い、手にとった。私は東京出身なので、東京から始まるこの物語を多少なりとも自分のこととして読んだが、たとえ関東の人間でなくとも、この本が取り上げているほんの数十年前までの人々の世界観については、多くの人がうっすら関心を抱いていると思う。単行本の帯文に内山節が「戻りたい未来がこの本にある」と書いているように、まさに「先を見据えて戻る」ということが必要なのではないかと最近考えている。それは単なるノスタルジーとは異なる行為だと思う。

 

 

オオカミの護符 (新潮文庫)

オオカミの護符 (新潮文庫)