カリフォルニアの本と虫

ロサンゼルス生活の日記だったけど、今は大阪にいます。

文学翻訳について

 ずいぶん前、とあるコンベンションで「Korean Literature Now」という広報誌をもらった。韓国文学翻訳院という韓国の政府系機関が出しているもので、非常に充実した内容だ。人気作家のインタビューや、詩の掲載、文学研究者の寄稿など、手に取りやすい薄さながら無料の配布物にしては盛りだくさんのコンテンツで、「いま」の韓国文学の面白さを英語で伝えている。表紙からしておしゃれで、手に取らずにはいられない。

 日本のネット情報を見ているとクオンの「新しい韓国の文学シリーズ」など数年前からの小説の日本語訳の流れがしっかり定着しているようで、読んでみたいものがたくさんある。この広報誌にも日本語訳のレビューが数冊出ていて興味をひかれる。

 アメリカでの需要のされ方については力不足で追えていないが、書店のSNSなどを見ていると韓国系アメリカ人の作家が盛んにイベントに呼ばれているのを見るし、韓国語からの翻訳もかなり出ているのではないかと思う(要確認)。存在感はある。

 上述の広報誌の巻頭エッセイではキム・ヨンハという作家の言葉が引かれていて、移民により多文化化する韓国社会からはじきに「ベトナム系による小説」とか「バングラデシュ系による詩文」とかそういうものが出てきて、それらすべてが「韓国文学」と呼ばれるであろうと予言されている。こういう言明が公共機関の出版物の巻頭に堂々と掲げられている、そのことに無意識に羨望を感じてしまっている自分がいる。それに気づき、若干暗い気持ちになる。

 翻訳書の支援というのはいっぺん外国語で出版していくつかの図書館に入れてしまえば、その後、半永久的にその国で自国の最良の言葉が参照されるようになるという、コスパ無限大の事業である。わがふるさと日本では、文化庁がやっていて専門家の評価が非常に高かった現代文学の翻訳事業が、2012年の事業仕分けの際、誤ったデータに基づきなんだかわけの分からないまま廃止になってしまったことが記憶に新しい。(参考)当時加藤典洋さんがこの処遇にかなり憤って連続ツイートしていたのを思い出す。廃止の根拠がデタラメだったのだから、ぜひ復活してほしいと多くの人が願っていると思う。

  日本の出版業界は瀬戸際に立っていて海外進出どころではないのかもしれないが、ここアメリカでもひとたび翻訳されれば普遍的に読まれて読者の人生を豊かにする作品はまだまだまだまだたくさんあると思う。村上春樹以外にももっといろいろな作家の作品が海外の本屋に並ぶようになると面白いんだけどなあ。

 

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